『月曜日の友達』を読み終えてから、著者の阿部共実の作品欲が止まらなくて、近所のBOOKOFFじゃ飽き足らず、都内の店舗でわざわざ探すまでとなった(ファンを公言する人は新刊を買おうね、おじさんとの結婚より重い約束だよ?)。
以前の記事でも書いたのだが、漫画というものは物語の終わりまで巻数が必要な場合が多かったりするから、一巻でとんでもない外れを引いたときの虚しさをなるべく避けるため、僕はネタバレをしない程度にAmazonの★評価の多さを参考にしていたりする。
それらをもって阿部共実の作品群で抜きんでて評価をされていたのが、表題の『ちーちゃんはちょっと足りない』だった。
以下、内容について細かく触れます。 ここで紹介する作品は事前情報がない方が楽しめる点も多々ありますので、本内容を読み進めることで新鮮味を失ってしまうこと、どうかご承知おきください。また作品の解釈も、一個人的見解ですので悪しからず。
登場人物の一人。南山千恵は中学2年生。彼女は文字通り、いろいろと足りていない。では、いろいろとはなにか?
この漫画のタイトルとカバー表紙を見れば、ある程度の人は察しがつくのであるが、要するに「頭(知性)」が足りていない。
この世の中、アホの子、と呼ぶべきキャラクターはごまんといて、少なからず人気を博していたりする。かくいう僕もそれらが登場する作品を好んでいたのだけれど、この漫画を読み終えた後、今まで「アホの子」と呼んでへらへらしていた自分を一蹴したくなった。千恵、いわゆるちーちゃんは、本当に足りていないのだから。
もったい付けずに言おう。僕は、
この作品が大嫌いだ。
なぜか? この作品はまごうことなき、
BADENDだから。一切の救いようが、僕には感じられなかった。
しかし一つ付け加えなければいけないことがある。
僕の中で「好きと嫌いは対局に存在する同一の感情」という哲学が存在している。陳腐な表現なのだが、心の底から「無価値」と思える人間への感情は「無関心」であると、よく言われていると思う。
この作品はその最たる例で、僕はとにかく嫌いなのだ。構成される人物、世界、台詞、思考、すべてが嫌い。だけれども、それらが僕の心を掴んでは決して離さないのだ。もっと端的に言おう。嫌いだがーー
面白い。言葉にできない魅力がある。
「つまらなかった」そう吐き捨てて、海馬からあっさりデリートできるほどやわな作品ではなかった。こうしてブログで駄文を書き連ねてしまうほど揺さぶれていることは、正直に述べなければいけない。
最後になぜ僕がここまで嫌いに、いや、この作品を賛辞ているのか書こうと思う。
このタイトルに「ちーちゃん」と入っているから、ちーちゃんの日常が描かれると予想されるだろう。しかしこの作品は、構成として前後を後半となっていて(明確に章立てされているのではない)、前半はちーちゃんを中心に織りなす日常劇で、アホの子の特権をフル活用した天然ボケギャグとかも挟まれていて、連載物のようだったから最初はほのぼのした路線の作風だと勘違いした読者も多いと思う。
だが、物語が後半に差し掛かると、空気が一変する。あえて書かないが、ある事件を境に、ちーちゃんの友達であるナツという女の子にスポットがあたるのだ。
ナツはありとあらゆることに苦悩する。その事件や、自らの境遇、罪悪感、他人への依存と無責任、友人への嫉妬、そして自己否定。本当に嫌なやつだった。だけれども、だけれども、そのナツを分かってしまう自分がいることが、本当に嫌だったのだ。黒ではない、血のにじむような気色の悪い粘り気が、自分の中にもちゃんとあるように、まざまざと見せつけれられるようで本当につらかった。
そして、僕は、この作品に出ているすべての登場人物に怒りという感情を抱いた。これは本当に著者の作家性と技術に尊敬するばかりなのだけど、いわゆる「映画の中のジャイアン効果」もしくは「ヤンキーが良いことすると相対的に好評価になる説」がいかんなく発揮されていて、そのお陰でこの友人のナツが、より「屑」であることが如実に訴えられている。それでも、彼女を真っ向から否定できないのが、阿部共実が昨今の若者の普遍的な部分を的確にとらえて作品に昇華している証拠なのだと、やはり舌を巻くばかりなのだ。
これはちーちゃんが主人公であることに違いはない。
だが、ちーちゃんの日常劇ではなく、ちーちゃんに振り回される、
その他大勢の群像劇だ。
僕はちーちゃんがいちばん嫌いだ。ラストにかけてのちーちゃんの行動に、目をむいて驚愕してしまった。
最後の一コマを見て、ちーちゃんは“やっぱり”足りていないとみんなにも感じてほしい。
これを書きながら僕は改めて自らの主張に柱を立てたい。この漫画はちーちゃんが主人公だ。だけれど、その本質はちーちゃんに振り回された人たちの物語だ。
それは始まりから終わりまで、ちーちゃんの心理描写は一コマもなかったからだ。
なんでだろうね? 僕はこれ以上、口にはできない。
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