このタイトルのときは推理小説の感想と、どんどん逸れていく横道話を。
記念すべき第一回目の感想はこちら。
泡坂妻夫『湖底のまつり』
初版1994年6月24日
初版が古いよね~! 今は2018年なので約25年前くらいの作品。著者の泡坂妻夫も出生が1933年の没年が2009年(75歳)ということだから、最近の作品はだいぶお爺ちゃんになっても書き続けたことになる。
Wikipediaを見てみると、死の前日まで執筆していたということだから筋金入りの推理作家だね。
さて、僕の感想というのは‟どっちつかず”の側面を悲しくも備えていて、一つは「コレオモチロヨ、オニイサン、ヨカッタラドウ? ネ?」っていう自分が面白かったものを愚鈍に押し売りしたい心持ちと、もう一つが「でもミステリでネタバレは駄目、絶対」っていういつもの標語みたいな部分。
つまるところ、別に作品を徹底的に分析して新たな知見を広げるでもなく、ネタバレをするわけでもなくただ「面白かったよ!」と書き残すだけの記事。中にはどうしても核心に触れないといけないこともあるだろうから、そういうときは前もって知らせるから、石橋は叩かずどうぞ。
物語は、傷心した女が山間で増水した川に流されるところから始まっていく。その女はある精悍な男に助けられるのだが……
まずね、舞台が山深い村なのだけれど、ものの数十ページで都会との繋がりを切られてしまう感覚がある。なんというか「トンネルをむこうは、不思議の町でした。」とコピーされた千と千尋の神隠し、のような……本歌取りをするならば「トンネルのむこうは、不気味な村でした。」が本作品。
これはホラー小説ではないので、怖いとか不気味で推すわけではないのだけれど、谷底の村、奇妙なまつり、男の毒殺、消えた犯人、面白いわけがない!
クローズド・サークル(密室)ではないから、登場人物に場所の制限はないのだけれど、それでもこの村で起きた事件と因縁が主人公らを村から離さないんだよ。みんなが嘘をついているのでは? という怪しい雰囲気も格別で、それを支えているのが「ダム建設」という大規模な計画。村の存続を維持する反対派と、ダム建設の推進派が対立する構図は、人間模様をより疑惑的にさせ推論の余地がぐいぐい広がっている。
この辺りで感想は仕舞いになるのだけれど、この作品の魅力をもう一点お伝えしなければならない。それは――
エロス!!!!
文体がエロいんだよ、おじさん困っちゃうなあ~~~(四十後半糞爺感)
誤解がないようにお伝えしておくと、まったく下品ではなくて、男女のラクロスの試合のシーン? あれがものすごく文学的に書かれている。文体もやや文語よりかな。ほんでもって、そのシーンが物語の大事な部分(これ以上は書けない!)だったりするもんだから、もう一寸足りとも気が抜けないよ。
事件の全貌が見えたとき、あなたは膝を打って飛び上がるだろう。神隠しにあったような不気味さと妖艶さが醸し出すミステリー、あなたも体験してみては?
そういえば、エロで思い出したから、最後に有名な三島由紀夫のおっ〇いの描写を引用して筆を置こう。
三島由紀夫 『潮騒』より
それは決して男を知った乳房ではなく、まだやっと綻びかけたばかりで、それが一たん花をひらいたらどんなに美しかろうと思われる胸なのである。
薔薇いろの蕾をもちあげている小高い一双の丘のあいだには、よく日に灼けた、しかも肌の繊細さと滑らかさと一脈の冷たさを失わない、早春の気を漂わせた谷間があった。四肢のととのった発育と歩を合わせて、乳房の育ちも決して遅れをとってはいなかった。が、まだいくばくの固みを帯びたそのふくらみは、今や覚めぎわの眠りにいて、ほんの羽毛の一触、ほんの微風の愛撫で、目をさましそうに見えるのである。
0コメント