もんじゃ焼き

 もんじゃ焼きが食べたい。
 つい二週間ほど前だろうか、離れた友人が東京に来た際に、浅草でもんじゃ焼きを食べた。複数人で鉄板を囲むことほど、心踊る様も他に少ない。
 しかしよくよく考えてみれば、もんじゃ焼きほどわけの分からぬ料理もない。まず第一に、もんじゃ焼きの本体はどこだ? あの銀のボウルにひたひた入った液体はいったいなんだ? 加熱すると妙に粘ってきて、どことなく出汁の風味をかもしだす、名状しがたい味のあの物質はなんじゃろか?
 さらに不思議なのが、その調理法である。一言でいうと“液体の微塵切り”。そんな風に思う。付け加えるならば、その後、平たく焼く。なぜこんな料理が美味いのか? 摩訶不思議この上ない。
 だがあの調理はこれまた得体の知れない魔力があって、うだつの上がらない童貞みたいな男どもは、こぞってもんじゃ焼きを焼こうとする。そして問答無用で失敗する。さらに厄介なのが、鉄板を挟んで女がいた場合、鉄板から出る熱気に頭もほだされ、彼女の姿かげろうさながらに、得てしてアルコールも摂取しているわけだから、その“ヘラ使い”もよほど頼りなく、結果ぐずぐずのもんじゃ焼きができあがる。見てみろ彼女の顔を! お前をもんじゃ……否、吐瀉物をみる目付きで睨んでいるに違いない。
(なお、僕はその友人がきた際、前述したとおりもんじゃ焼きを買って出て、餅明太ミックスを焼き始めて2分後、例の汁を鉄板に流し込んだところで南米系の女店員が「あっ」と漏らしたかと思うと、「餅はまだ……でも今なら大丈夫」と見るにみかねてヘラを奪われ、それはもう見事な手際で完璧なもんじゃをこさえた。その時の僕の気持ちを、貴君らは想像できまい? 台風が去ったと思ったら、街は台風が来る前より綺麗になっていた。そんな気持ちである。無論、友人らは喝采して喜んだ。)
 誰を弁護するわけではないが、熱々の鉄板を前にして男どもが奮い立つのもやむを得ないと言える。スキルはどうあれ……

 と、おれはこの記事を書きながら、最寄り駅のバルにいたのだが、なんか知らんがカンガルーの肉が提供されている!
 おれはカンガルーの肉を食べている! 見てくれ諸君、これがカンガルー肉だ!!
 かなりレアな焼き加減で提供された。後味に微かな獣臭(口内で獣臭を体感したのはこれが初めて)があった。美味いではないか!!
 もうもんじゃ焼きどうでもいい!(ヘラぽいっ)
 カンガルーって食べられるんだね……僕は動物園で彼らを見るたびにこの味を思い出すだろう。オーストリアに感謝感謝。

0コメント

  • 1000 / 1000