ヒトになりたい

 コンラート・ローレンツ著『ソロモンの指環』より

・私が動物を笑うことはめったにない。たまたまつい笑ったときも、よく考えてみると、それは動物によってもののみごとに風刺された私自身や人間を笑っていたということに気付くのである。
・こんな表現をしても、私はけっして擬人化しているわけではない。いわゆるあまりに人間的なものは、ほとんどつねに、前人類的なものであり、したがってわれわれにも高等動物にも共通に存在するものだ、ということを理解してもらいたい。心配は無用、私は人間の性質をそのまま動物に投影しているわけではない。むしろ私はその逆に、どれほど多くの動物的な遺産が人間の中に残っているかをしめしているにすぎないのだ。


 特に鳥類において、孵化した瞬間に認識した存在を親だと思う“刷り込み”の理論を提唱した動物行動学者であるローレンツは、様々な観察を通して動物たちの生態を記した『ソロモンの指環』という著作を残した。彼はその中で「人間が、動物へ投影する人間っぽさ(それに対する嘲笑や擬人化)」について、まったく逆の立場から、動物の人間らしい振る舞いは「人間の中に動物的な遺産が残っている」としめした。


 2020年になった。年が明けた。

 時の経過を観測できるのは恐らく人間だけだろう。僕はまた、365日という地球の自転を体験していくのだ。後悔を重ねながら、思案に暮れ、生まれたときから変わらない子どものままの自分を卑下して共感を得る。そういう人間らしい日々を過ごすのか。

 動物は生きることについて考えない。日の出にむっくり起きて、腹八分の食事と排泄が済んだら、星の瞬きに瞼を落とす。僕は自らの動物的な感性を信じたい、かろうじてでも存在する生きることへの無頓着さに執着したい。

 人間は苦しい。でも、学びたい。獣の行動と人間の知性を宿したい。半獣半人のヒトになりたい。明日を継ぐために。もっともっと学びたい。

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